花山の口述筆記する常子 / とと姉ちゃん 第154話

連続テレビ小説(朝ドラ)『とと姉ちゃん』
2016年9月29日(木)放送
最終週/第26週 第154話「花山、常子に礼を言う」

『とと姉ちゃん』最終週/第26週 第154話 「花山、常子に礼を言う」あらすじと見どころ解説

『あなたの暮し・戦争特集号』は創刊以来最高となる販売部数を記録。悲願だった発行部数100万部を達成しました。最新号の成功に心から満足する花山に常子は告げました。今後の『あなたの暮し』のためにもしっかりと養生し、健康を回復させてほしいと。

月日は流れ1975年(昭和50年)1月。常子たちの願いもむなしく、衰弱がすすんだ花山はペンを握ることも難しくなり、口述筆記で原稿を書くようになっていました。そんな中、原稿を受け取りに自宅にやって来た常子に、花山は「あとがき」の口述筆記を頼みます。

花山がわずかに残された力をふりしぼって口にしたその言葉は、まるで『あなたの暮し』の読者に対する花山からの遺言でした。花山は常子に頼みました。自分が死んだら、その時の号にこのあとがきを載せてほしいと。

もし花山が死んだら自分はどうしたらいいのか。嘆く常子に花山は言いました。常子が迷った時は常子に宿って常子を導くと。そして常子の帰り際、描き上げたばかりの表紙の絵を常子に渡した花山は、いつまでも常子に手を振り続けるのでした。

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midokoro
花山が妻の三枝子に反対され、常子に叱られながらもどうしても完成したかった『あなたの暮し・戦争特集号』。

花山のライフワークは完成するものの、花山の衰弱は更にすすんでしまいます。

『とと姉ちゃん』最終週/第26週 第154話 「花山、常子に礼を言う」
 事前発表あらすじのレビューと解説

今回の劇中で登場する、悲願の100万部超えを達成した『あなたの暮し・戦争特集号』の実在モデルは1968年(昭和43年)の夏に刊行された『暮しの手帖』96号と思われます。

『暮しの手帖』96号はすべてのページにわたって特集記事を掲載。その特集の名は『戦争中の暮しの記録』。

この特集は『戦争中の暮しの記録―保存版』というタイトルで単行本化され、現在も購入することが可能です。

戦争そのものの記録は正確に残されるその一方で、戦時下で庶民が何を食べ、何を着て、何を思い暮したのかが記録されないことを憂いた花森安治が、読者から戦争中の暮しの記録を募り一冊にまとめたのが『戦争中の暮しの記録』でした。

戦争中の暮しの記録―保存版


『とと姉ちゃん』最終週/第26週 第154話 「花山、常子に礼を言う」
 朝ドラ観賞後の感想

「常子さん、どうもありがとう」

【手】だけでこれだけ泣かされるとは思いもよりませんでした。

これでもう常子ちゃんとは二度と会えない。常子ちゃんとの別れを惜しむかのようにいつまでも、しかし弱々しく振り続けられる花山さんの【手】。

花山さんが自らの死期がすぐそこまで来ていることを悟っているのは間違いなさそうです。

「人間いつ死ぬかわからない」と口では言う花山さんでしたが、自分が間もなく死ぬことだけははっきりと分かっていたのでしょう。

もしかすると、常子ちゃんと時間を過ごすのはこれが最後になると、花山さんはそこまで思っていたのかも知れません。

「素敵な人ですね」

次号の表紙のイラストの絵に目を奪われる常子ちゃんの表情を満足げにながめながら、花山さんは思い出しました。常子ちゃんと初めて出会った頃のことを。花山さんが描いた雑誌の挿絵に見とれる常子ちゃんを。

初めて出会った頃の常子ちゃんが花山さんの挿絵について「素敵な家ですね」と感激を口にしたその日から、次号のイラストを見て「素敵な人ですね」と喜ぶ今日までの長い年月。

その間に一緒に過ごした豊かな時間のすべてに花山さんは感謝したのでしょう。

「常子さん、どうもありがとう」と。

今週のサブタイトル「花山、常子に礼を言う」はこの瞬間のことを意味していたのか、もっと大きな意味が込められているのか。

いずれにせよ「どうもありがとう」という良く使われるありきたりな言葉が、これほど輝きを放って見えるのには驚きました。

そして「どうもありがとう」と口にする花山さんに異変を察したらしい奥様の三枝子さんの一瞬憂いを帯びる表情が痛々しい。

そして「いやだわ、花山さん」と花山さんに返し、つとめて明るく振る舞おうとする常子ちゃんの不自然なほど明るい声色も悲しすぎました。

「もし花山さんがいなくなったら、私どうしたらいいんですか?」

常子ちゃんがここまで涙を見せるのは、もしかすると『とと姉ちゃん』劇中では初めてのことではないでしょうか。

常子ちゃんの両目からこぼれ落ちる涙が止まらない。

常子ちゃんが声を出して泣いたのはこれまでに二回。竹蔵ととが亡くなって数日後。そして戦前ほ星野くんとの別れの後のことでした。

その時、しばらくは涙をこらえていた常子ちゃん。その常子ちゃんが号泣しはじめた時、常子ちゃんは君子かかの胸の中で泣くことで、涙だけは見せずにいました。

誰にも頼りたくない。誰にも涙を見せたくない。そんな常子ちゃんの性格をよく知っている君子かかが、常子ちゃんの涙を隠してくれていたのかも知れません。

そんな君子かかが亡くなる間際に花山さんに言いました。

常子ちゃんは人に頼ることが出来ない性格だ。その常子ちゃんがはじめて頼れることが出来たのが花山さんだと。

君子かかが言ったとおり、常子ちゃんは花山さんの前では決して強がらない。花山さんの前で涙を流し続け、涙を隠そうともしません。

そしてこんな弱音まで吐く。

「もし花山さんがいなくなったら、私どうしたらいいんですか?」

常子ちゃんにとって花山さんがどんな存在だったのかがすべて語り尽くされているような、常子ちゃんと花山さんの最後の時間でした。

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16 Responses to “花山の口述筆記する常子 / とと姉ちゃん 第154話”

  1. まゆ より:

    朝蔵さん、ご無沙汰いたしております。
    久しぶりのコメントになります。
    二人目が産まれ、毎朝がバタバタでなかなかとと姉ちゃんが見れていませんでした。

    最近ようやく見れるようになったと思ったらもう終わり間近で、見逃していたのを後悔してます(泣)
    前作のあさがきたにどハマりしていた娘は、今度はとと姉ちゃんにもはまったようです。
    テレビで高畑充希さんを見ると「あ、とと姉ちゃんだ!」と指差すようになりました。

    未だに波瑠さんを見れば「あさちゃんだ!」と喜び、玉木宏さんを見れば「しんじろうさーだ!」とはしゃぐ娘です。
    きっとこれからは高畑充希さんを見るたび「とと姉ちゃん」を思い出すのでしょう。
    朝ドラとは本当に素敵な時間をくれますね。

    花山さんの「ありがとう」、とても心に沁みました。
    今の世の中にも花山さんのような考えの方がいてくれたら、働く女性の世知辛さが無くなるのにと思ってしまいました。

    「とと姉ちゃん」は昭和の時代から平成の今の女性の働き方についても問い続けてくれている素晴らしい作品だと思います。

    母が録画してくれた「とと姉ちゃん」を娘と最初から見てみようと思います。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。まゆさん、お久しぶりです!

      > 二人目が産まれ

      それはおめでとうございます!3年後くらいには朝ドラファンがまた一人増えますね。

      > 朝ドラとは本当に素敵な時間をくれますね

      次作は目にも楽しい刺繍や手芸や洋服もふんだんに出てくるので、お嬢ちゃんはまた楽しめる作品かも知れませんね。

  2. まいもん より:

    今回の放送を観ていて、花山と常子が初めて出逢う「3度も言わせるな~!」や、戦後の闇市の花山の珈琲屋での出来事、「もう間違えないようにしませんか?」という常子の言葉に腰を上げた花山、広告問題での(一時的な)喧嘩別れ、谷の粋な計らいによる花山の復帰、商品試験でのアカバネとの対決・・・

    本当に様々な場面が走馬灯のように過って、涙が止まらない回になってしまいました。

    「常子さん、どうもありがとう」という言葉から続く花山の弱弱しいさよならの手を振る姿・・・

    そんなに多くの朝ドラを見ている訳ではありませんが、深く心に残る場面として刻み込まれました。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 様々な場面が走馬灯

      本当にいろいろなことがありました。内務省時代の意気揚々とした表情から一転、玉音放送を聞く時の苦渋に満ちた顔も忘れられません。

  3. ともとも より:

    口述筆記というと、途切れ途切れに語られる言葉を拾って、
    繋ぎ合わせながら書き留めるイメージでしたけど、
    花山さんのは速い速い!書きたいことが胸の内に溢れていて
    手が間に合わないだけなんですね。テレコが要るわけです。

    花山さんに顔を向けたまま、静かに涙を流し続ける常子さん。
    隠すこともなく、拭うこともなく・・・
    姉妹にも見せない涙を、花山さんには、見せられるんですね。

    出会いの時と重なる原稿の受け渡しと台詞。
    やけに丁寧に「ありがとう」を伝えて、手を振る花山さん。
    扉が閉まるまでは明るく微笑んで、その後は力を失って。
    後ろ髪を引かれながら、雪路を辿る常子さん・・・
    「また来ますね」のはずが、なんだか二度と会えないような。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 姉妹にも見せない涙を、花山さんには、見せられる

      今回の常子ちゃんの涙で、常子ちゃんにとって花山さんがどれほど大切な存在だったのかがよくわかりました。そして星野くんとの二度目の別れが軽く描かれたのも、今回の別れを際立たせるためだったのかなとも思いました。

  4. もんすけ より:

    花山さんの【手】。
    ペンを握って渾身の原稿を書き、絵筆を取っては心温まる挿絵を描く。
    時には洗濯機のコードを分解し、その落ち度を読み解き、愛しい孫の頼みでクレヨンを取り、裁断ばさみで画期的な服地を裁ち落とす。
    たった一人の【手】が、仕事では常子ちゃんに達に、家庭では奥様・三枝子さんに支えられ、『戦争中の暮しの記録』刊行へと導いていった…。
    庶民の旗を全身全霊で振り続けていた花山さんの【手】が、常子ちゃんに向かって振られていたのは、これまでの多大なる感謝と御礼はもちろんのこと、死の間際まで庶民の旗を振り続ける意志と常子ちゃんたちに振り続けてもらいたい遺志までをも含まれていたのではないかと、妄想。
    穏やかで慈愛溢れる壇ふみさんの、いつものナレーションは悲しみとともに降り積もる雪に吸い込まれてしまったのでしょうか。
    そのナレーションの空白が心にチリチリと響きました。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 全身全霊で振り続けていた花山さんの【手】

      ものすごく深い考察ありがとうございます。鳥肌が立つほどの深読みです!

      > 死の間際まで庶民の旗を振り続ける意志

      死の間際まで働くことで、自分の命の最後の一滴まで庶民のために使い続ける花山さんの鬼気迫る姿が忘れられません。

  5. エイスケの後輩 より:

    庶民の旗として映像が出てきた、継ぎ接ぎの旗のモチーフは、こちらの本の表紙なんでしょうかね。
    https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4766000269/ref=pd_aw_sim_14_1?ie=UTF8&psc=1&refRID=XXQK71F5K9GHGW6JCFNX

    話が全く変わるのですが、今改めて初回の最初のシーンを見たくなりました。
    今出ている社員さんは、この時から出演されていたのかなと。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 継ぎ接ぎの旗のモチーフ

      庶民の旗にも実在モデルがあったとは!

      > 初回の最初のシーン

      そう言えば初回にちらっと出てきたベビーカーの商品試験はその後出てきませんでしたね。

  6. よるは去った より:

    花山「一人でも多く読者を紹介してください。」 昨日、近くの書店で「暮らしの手帖」10ー11月号が陳列去れているのを見て、ちょっとだけ立ち読みして買わなかったんですが、今日の回を見て「やはり買おう。」のモードになりました。→あ、宣伝じゃありませをからね。「戦争中の暮らしの記録」は書店は在庫切れだったので楽〇通販で発注。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 「戦争中の暮らしの記録」

      増刷になるかもですね。昭和44年の雑誌が増刷となったらすごいことです。

  7. うつ より:

    この唐沢さん、もう他のNHKのドラマ、例えば
    大河ドラマでも木曜時代劇でも
    歴史上の人物がもう案外、似合っているのでは?
    戦国時代なら島津義久とか江戸時代なら二宮尊徳とか
    戦後なら若き日の田中角栄とか、本田技研の創業者とか。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 歴史上の人物

      そうですね。しかも少しばかり変わり者の歴史上の人物を演じさせたら右に出る人はいないかもです。

  8. きゅうぽん より:

    とと姉ちゃんのドキュメントで、戦争の様子を庶民の目で見て語られているこの号を知り、後世に残すべきもの、後世の人々がきちんと読み、学ぶのには大切なものだと痛感し、暮しの手帖さんにぜひ復刻版を!とお願いしたら…即、出ていますとご返答ありで、びっくりしました(^_^;)
    それだけ人気というか、多くの方々が共感した結果ですね。
    私も早く読みたいです。

    • 朝蔵(あさぞう) より:

      コメントありがとうございます。

      > 戦争の様子を庶民の目で見て語られているこの号

      僕もいまだに販売され続けていることに驚きました。何十年も売れ続ける書籍はいくらでもありますが、これは雑誌です。花森安治という人物が天才編集者と呼ばれる理由がこの一冊でよくわかりました。

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