2024/9/17(火)第25週「女の知恵は後へまわる?」
あらすじ
朋一の異動のこと。少年法改正のこと。寅子は考えることを沢山抱え込んでいました。思い詰めた寅子は桂場を訪問。朋一の異動の真意を尋ねようとするものの、寅子の問いかけを桂場は一蹴しました。
穂高イズムを掲げていてはこの場にいられないと言って桂場は寅子を長官室から追い出しました。そのころ、桂場もまた苦悩していました。そして苦悩する桂場が思い出すのは、理想を思い求めた多岐川の存在でした。
月に一度の法制審議会少年法部会が開かれました。会議は今回も紛糾。怒りをあらわにする家裁の面々を抑えつつ、久藤は家裁の意義を訴えました。そんな中で久藤が思い出すのは、生前の多岐川の姿でした。
美位子の事件が上告されてから1年。その事件を最高裁で受理するか決まらない中、航一は轟とよねを訪問。航一の訪問を受けたよねは訴えました。救いようのない世の中を少しだけでもマシにしたいのだと。
虎に翼|感想あらすじネタバレトップページ
感想
トラちゃんも、ライアンさんも、そして桂場さんも、皆さん、苦悩しています。
トラちゃんの苦悩
トラちゃんは考えることがいっぱいです。
最大の問題は少年法改正の議論。
多岐川さんが理想を掲げ、ライアンさんがそれを受け継いだ家庭裁判所の存在意義そのものさえもが問われる事態に。
しかし、理想を追うその一方で少年犯罪が増えているのも事実。
そして、理想を追うトラちゃんに対して家裁の若手調査官の女性はあくまでも現実を直視しているらしい。
外部からも現実を突きつけられ、内部からも現実を直視させられる。
そしてトラちゃん自身も理想を追うだけでは無理があることを百も承知しているのでしょう。
トラちゃんの苦悩はまだまだ続きます。
さらにトラちゃんの苦悩はそれだけではありません。
朋一くんが左遷人事に遭いました。
朋一くんの勉強会仲間の若手たちも一斉に左遷人事に遭いました。
この強引な人事は、桂場さんがやったことではないと信じたかった。
しかし、桂場さん自身が自ら認めました。
朋一くんたちの左遷人事の指示を出したのは自分であること。
トラちゃんの目には変わってしまったかに見える桂場さん。
今回、トラちゃんが長官室を立ち去る際に、まるで永遠のお別れみたいな言葉をトラちゃんは桂場さんにに投げかけました。
トラちゃんの中で桂場さんへの尊敬の念が崩れた瞬間だったのかな?
ライアンさんの苦悩
いつも余裕たっぷりで殿様然としているライアンさん。
今回も余裕のあるところを見せようとしていましたが、それが必死の努力であることは誰の目にもわかる。
いつも明るくお気楽なライアンさんも今回ばかりは苦悩の色を隠せません。
ライアンさんはいつも胸ポケットに大好きだったタッキーの写真をしのばせています。
ライアンさんにとってそれはお守りみたいなものなのでしょう。
少年部会の終了後、「笹竹」に足を運んだライアンさんがトラちゃんに言いました。
タッキーに会いたいと。
この一言にライアンさんの苦悩と焦りがにじみ出ていました。
ライアンさんのこんな姿を見ることになるとは、想像すらできませんでした。
桂場さんの苦悩
トラちゃんもライアンさんも苦悩しています。
しかし、苦悩が一番深いのはどうやら桂場さんのようです。
穂高イズムを「あんたもの」とまで言ってしまうほど桂場さんは追い詰められています。
若手の左遷人事が、司法の世界に土足で足を踏み込ませないためだったことは、トラちゃんに指摘されなくても桂場さん自身が一番わかっているはず。
しかし、それしか選択肢がなかったことに桂場さんの苦悩がある。
そんな桂場さんの心の支えも、多岐川さんだったようです。
ライアンさんとは異なり桂場さんは自分の感情を素直に表に出すことはないですが、桂場さんも心の底から思っているはず。
多岐川さんに会いたいなって。
よねちゃんの訴え
よねちゃんの航一さんへの訴えが重すぎました。
「人の所業とは思えない事件」を「珍しい事件ではない」「ありふれた悲劇だ」とまで言い切るよねちゃん。
よねちゃん自身も経験し、また社会の底辺にいたからこそ、よねちゃんは「人の所業とは思えない事件」を珍しくないありふれた出来事ぐらいに感じてしまうのでしょう。
よねちゃんの経験したことがクライマックスのフェーズに入って回収され始めました。
次回作
重苦しい回でしたが、それとは真逆の世界が次回の朝ドラでは展開するようです。
昨日、ヒロインの新たなビジュアルが公開されました。
新たなビジュアルは「ギャル」。
朝ドラ初に次々と挑む大阪チームが、再び朝ドラ初となるギャルのヒロインを登場させました。
「おむすび ギャル」と画像検索すると、ギャルになったヒロインの画像がヒットします。
お試しください。
予習レビューと史実のリアルエピソード
桂場さんの変化
今週、桂場さんの人が変わってしまいます。
戦前から通い詰めた、こよなく愛する「竹もと」に姿を見せなくなる。
トラちゃんからは、桂場さんは何かに焦っているのではないかと心配される。
そんな不穏な動きを見せる桂場さんの今週のエピソード、リアル桂場さんのこの当時の実話がヒントになっているのかもしれません。
桂場さんの実在モデル:石田和外氏
桂場さんの実在モデルは石田和外(いしだかずと)氏です。
今週の時代に最高裁長官だったのが石田和外氏。
石田和外氏はまた、リアルトラちゃんから裁判官採用願を受け取った人物でもあります。
石田和外氏は明治36年(1903年)福井県福井市生まれ。
福井中学校在学中に福井県庁職員だったお父上が46歳で他界。
その後、一家は上京。
東京帝国大学法学部を卒業後、司法省に入省しました。
昭和9年(1934年)帝人事件の第一審裁判を担当。
「水中に月影を掬するが如し」という言葉を使って全員に無罪を言い渡したエピソードはドラマの中でも再現されました。
戦後になり昭和22年(1947年)、司法省人事課長に就任。
昭和38年(1963年)6月6日、最高裁判所判事に就任。
昭和44年(1969年)1月11日、最高裁判所長官に任命されました。
石田和外氏が裁判所に招いた分断
昭和44年(1969年)、最高裁長官に任命された石田氏は「保守派の剛腕」として知られるようになりました。
ドラマの中ではリベラルな穂高イズムの継承者として描かれてきましたが、リアル桂場さんこと石田氏は保守派だったようです。
石田氏が保守派だったことがよくわかるエピソードに次のようなものがあります。
昭和29年(1954年)、若手の法律家たちが集まり「青年法律家協会(青法教)」を設立。
青法教は、憲法の擁護と基本的人権を守ることを目的としていました。
青法教は、保守政治家から左翼活動として問題視されていました。
石田氏は最高裁幹部になったころより、青法教に参加したことがある法律家を差別。
再任拒否や修習生の罷免など、青法教出身者の排除をあからさまに行いました。
このころの人事上の差別は、裁判所に分断を生じさせるほどの結果を招きました。
この強権的ともいえる石田氏の史実エピソードが、ドラマの中では桂場さんの変化として再現されるのかもしれません。
少年法の対象年齢を引き下げ
今週のドラマで描かれる少年法の対象年齢を引き下げる問題。
少年法の対象年齢の引き下げを主張していたのは保守派の人々でした。
その中にあって、石田氏は意外にも少年法の対象年齢の引き下げに対しては反対の立場をとっていました。
少年法の対象年齢の引き下げにはリアルトラちゃんも反対していました。
しかし石田氏が少年法の対象年齢の引き下げに反対する理由と、リアルトラちゃんが反対する理由は異なります。
リアルトラちゃんが少年法の対象年齢の引き下げに反対したのは、非行少年に対しては厳罰化よりも健全な育成を促したいという少年法の基本理念の実現に目的がありました。
一方で、石田氏が少年法の対象年齢の引き下げに反対した理由。
それは司法省が結論ありきで諮問を行なってきたことに対して、裁判所の独立が脅かされること事態を拒絶するためでした。
虎に翼|感想あらすじネタバレトップページ
付け入るスキを与えない。
そのために先回りして異動させたり処罰したりして、所内の動きをけん制する。
でもそれは結局は、相手の思惑通りになるということですよね。
それは忖度であり迎合であるように、私には思えます。
桂場さんが守ろうとしている「司法の独立」とは、いったい何なのでしょうか。
家裁の中も、何となくギクシャク。
トラちゃんの考え方や姿勢に、懐疑的な職員もいる様子です。
これからどうなっていくことやら。
ありふれた悲劇…
彼女自身地獄を見てきて、カフェーという女性性を売り物にする場所でさらにさまざまな地獄を見聞きしてきたよねちゃんの言葉に、重みがあります。
それは航一さんにも伝わったはず。
朋一さんの移動先が家裁少年部とは,ちょっと酷いですね。事実上は継母にあたる寅ちゃんが直属の上司というのは,もうこれは法曹界からの追い出しに他ならないです。史実では三淵さんの家族の誰かがそのグループにいたかどうかはわかりませんが、かなり強い保守反動の青年グループだったようです。 寅ちゃんはせめて朋一さんの移動先変更の申し立てはできたと思いますが,同じ職場では,周りの目もありますし、朋一さんは思い切って仕事をすることはできないでしょう。
職場上の悩み多し。職員の空気もどこか保守的に。寅子さん、桂場さんへの抗議。一見桂場さんの意見は正論に見えるが、ある意味空虚。なので多岐川さんの幽霊が叱責に。少年法改正の議論、ライアンさんはどう納めた?尊属殺人。これは正当防衛にはならないか?
桂場さんは変節してしまったのでしょうか…?私は必ずしもそうではないと思います。
トラちゃんが法律を「きれいなお水みたいなもの」と桂場さんの前でたとえてみせたことがありましたね。その「きれいなお水」を流してやるのが司法であり、「きれいなお水」を立法(議員政治)や行政(役所)の権力からの介入から守り、司法の独立を維持することこそが桂場さんの理想とするところなのだろうと思われます。ただ、それを貫き通すために頂点にあるからこその裁量も辣腕もふるって貫こうとするところが、多岐川さん言うところの「堅物野郎」というか、トラちゃんが心配する「焦っているみたい」に見えるのでしょう。そういう点で、ブレない人だなあ、という印象です。
個人的立場では決してリベラルではなく保守で、そこはトラちゃんとは相容れないところになるのでしょうが、とにかく司法に忠実であり続けること、その一点だけであり、それは政治的な思想や立場で左右されるべきことではないというのが彼の立場なのでしょう。それにしても、やっぱり団子に舌鼓をうつぐらいの余力というか、そこは力を抜かないと、ですよね…