2025/6/12(木)第11週「軍隊は大きらい、だけど」
あらすじ
嵩が入隊して二年が経過した昭和19年(1944)夏。嵩と千尋が三年ぶりの再会をはたしました。白い軍服に身を包んでやってきた千尋は、そのときすでに海軍の士官になっていました。嵩と千尋は座敷席で酒を酌み交わしながら向き合いました。
ショックを受ける嵩に千尋は説明しました。京都帝国大学を繰り上げ卒業した後、海軍予備学生に自ら志願したのだと。「もう後戻りはできない」と語る千尋は、清が生前使っていた手帳を嵩に渡しました。
嵩との会話の中で、千尋は気持ちのぶに対する想いを打ち明け始めました。嵩がグズグズしている間にのぶは他の男に取られてしまった。自分が生きて帰って来れたら遠慮はしない。のぶをつかまえると。
愛する国のために死ぬより愛する人のために生きたいと千尋は嵩に言いました。千尋の言葉を受け止めた嵩は、生きて帰って来い。生きて帰って今度こそ千尋の人生を生きろと言葉を返しました。
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感想
ほぼほぼ密室劇。
これまでになく濃密な回でした。
のぶちゃんへの想い
いつだったか千尋くんの気持ちをメイコちゃんが勘づいてしまう場面がありました。
千尋くんの気持ちとは、のぶちゃんへの想いです。
あの場面が回収されました。
今回は、もう一つのフラグも回収されました。
それは、生前の寛先生が千尋くんに言った言葉です。
お前は我慢しすぎだ、もっと我がままになれみたいな言葉です。
メイコちゃんのフラグ、寛先生のフラグ、二つのフラグが今回の一つの場面で見事に回収されました。
メイコちゃんが察した通り、千尋くんはのぶちゃんのことが好きでした。
メイコちゃん、さすがです。
そして、寛先生が洞察したとおり千尋くんは自分の気持ちにフタをしめていたようです。
嵩くんに遠慮して。
真面目な性格の千尋くんのことです。
のぶちゃんを想う気持ちは真剣そのものだったに違いありません。
でも、兄も同じ女性が好き。
そして、千尋くんは兄が大好き。
だから、大好きな兄がのぶちゃんと一緒になるのなら、悲しいけれど祝福してあげよう。
そんな気持ちでいたのかもしれません。
『カムカム』で、兄の稔くんも、弟の勇くんも、兄弟揃って安子ちゃんのことが好きだった雉真兄弟のように。
ただし『カムカム』では、兄は意中の人と一緒になることができました。
ところが本作では、兄はグズグズしているうちに意中の人は他の男に取られてしまった。
これでは千尋くんとしても、何のために自分の気持ちを封印していたのか分からない。
かつての寛先生の言葉の重みを千尋くんは感じているに違いない。
そして・・・
自分は生きて帰れないかもしれない。
人生の最期を迎えた人が最も後悔することの一つは挑戦しないことなのだそうですが、千尋くんも自分の最期を感じているはず。
そして、最期の後悔をしているのかもしれません。
千尋くんの恋、切なすぎます。
「生きて帰ってこい」
千尋くんは恋心だけでなく、人生のあらゆることを我慢して生きてきたこれまでの人生を悔やんでいるようにも見えました。
しかし、その後悔を必死に噛み殺す千尋くん。
我慢しなければよかったという後悔。
我慢してしまう自分の性格。
その二つの矛盾した感情が正面衝突し、そこから生じたエネルギーが千尋くんの全身からあふれ出ているようでした。
呼吸をするのを忘れるほどでした。
そして、そんな千尋くんを心から愛している嵩くんに涙が止まりませんでした。
千尋くん、生きて帰ってきて欲しいです・・・
予習レビューと史実のリアルエピソード
千尋くんの入隊
昭和19年(1944)夏。
入隊してから2年がスキップし、嵩くんは伍長に昇進しています。
そんな中、手紙が届きます。
差出人として書かれていたのは「海軍少尉 柳井千尋」。
なんと千尋くんも入隊していました。
千尋くんは手紙の中で嵩くんに「今度の土曜日、小倉で会おう」と呼びかけ、兄弟の再会が実現。
海軍の白い軍服に身を包んだ千尋くんが今週登場します。
嵩くんと千尋くんは旅館の座敷席で食事をし、嵩くんは千尋くんの近況を聞かされます。
千尋くんの近況は次のとおりです。
京都帝国大学の卒業が半年繰上げとなり、海軍予備学生に志願。
遅かれ早かれ兵隊に取られるならば、自分から志願してしまおうと考えたようです。
そして五日後には佐世保から駆逐艦に乗って南方へ。
もう後戻りはできない。
千尋くん、そんな覚悟を固めています。
兄と会うのはこれが最後と覚悟しているのかもしれません。
嵩くんの反応
千尋くんが選んだ道に、嵩くんは納得ができません。
嵩くんは千尋くんに詰め寄ります。
弱い人たちを救うために法科に入ったのではなかったのか。
あの時の千尋はまぶしかった。
千尋は家族の誇りだ、世界でたった一人の弟だ。
などなど。
千尋くんが法律の道を捨てたかに見えることに、嵩くんにはかなり大きなショックを受けるようです。
嵩くんは千尋くんにこんなことを言います。
寛先生が生前に繰り返していた言葉を引用しながら・・・
「何のために生まれて何のために生きるのか、敵の潜水艦をやっつけるためじゃないだろ」
弱い人たちを救うために法律の道を選んだ千尋くんのことを、嵩くんは心の底から誇りに思っていたようです。
それだけに、嵩くん自身がどうしても馴染むことができない軍隊に、千尋くんが自ら志願して入ったことが、嵩くんは受け入れられないようです。
千尋くんがついに打ち明けること
食事の後、嵩くんは千尋くんのある気持ちを初めて知ることになります。
千尋くんも、そのある気持ちを口に出すのはこれが初めてのはずです。
その場面は、兄弟の食事が終わった後の場面で描かれます。
食事が終わってから会話する中で、「千尋が一番したいことを言ってみろ」と嵩くん。
嵩くん、弟との思い出を作っておきたかったらしい。
すると千尋くんがこたえます。
「シーソーに乗りたい」
シーソーというキーワードで、二人の会話の中にのぶちゃんの名前が出てきます。
そして千尋くんが思わず口にした「もう一度のぶさんに会いたい」という千尋くんの言葉で嵩くんが察します。
千尋くんはのぶちゃんが好きだったことを。
自分の気持ちを初めて明らかにした千尋くん、嵩くんの胸ぐらをつかみながら詰め寄るんです。
「何グズグズしてたんだ!お土産のハンドバッグも渡せず、気持ちも伝えられず、他の男にとられて・・・」
続けて千尋くんは言います。
「生きて帰ったら、もう誰にも遠慮はせん。今度こそのぶさんをつかまえる。人妻でもかまわん」
ここまでがドラマの中で描かれる事実。
以下はブログ主の推測です。
千尋くん、どうやら嵩くんに遠慮してのぶちゃんへの気持ちを我慢していたらしい。
それなのに嵩くんがグズグズしている間にのぶちゃんを他の男にとられてしまった。
こんなことになるのなら、嵩くんに遠慮せず、のぶちゃんに好きだと告白して自分が結婚してしまえばよかった。
千尋くん、そんなふうに考えているのではないかと思います。
兄に遠慮したばかりに、第三者に好きな女性を取られてしまった千尋くんの恋、あまりにも切なすぎます。
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この戦争さえなければ…
それはこの時代の多くの若者、のみならず、多くの人たちが思っていたことなのでしょう。
この戦争さえなければ、続いていたであろう平穏な生活と来るべき未来。
全てを奪われ、大きな波に飲み込まれていくしかない市井の人々。
その人たちの心の叫びを代弁するような、千尋くんの血を吐くような言葉でした。
千尋君、行きますって行ってしまいましたね。
頭がよくて優しくて、いつでも自分の頑固を通すより、周りを考えてしまう人だった。
弟さんがアンパンマンのモデルだってどこかで読みましたけど、本当に、アンパンマンに似ている、そっくりだと思いました。
悲しいですね。